【絵本】わたしは恋を忘れた小鳥
わたしは今、
病院にいます。
そして、
わたしは、もう家には帰れない。
とても難しい病になってしまったの
学校のお友だちに会いたい
みんなと一緒に、学校に行きたい
しかし、
その願いは叶いそうもありません。
そう、わたしの人生はもう終わるの
このまま
わたしの名前はルチル
中学2年生の女の子
ある日、部活のテニス部で朝練をしているときに
突然、めまいがして倒れたの。
目を覚ましたら、病院のベッドに寝ていた。
その日から、わたしは病院暮らし。
そして、
昨日、主治医のサクラ先生から告げられた
わたしの名前はシトリン
ルチルちゃんとは同じ階の病室で闘病中なの
ルチルちゃんが入院したことは、
サクラ先生が教えてくれたの
わたしも、とても難しい病気になったの
だけどね、
おともだちがいるから、嬉しいよ
病気の治療はとてもつらいけど、
だけどね、寂しくない
おともだちがいるから、気持ちがしっかりしてきたの
僕はモリオン
僕もこの病院に来て長いんだ。
僕は今度、手術を受けることになったよ。
難しい手術だって、主治医の先生から説明されたんだ。
とても寂しいよ。
最近特に、心細くて、気持ちが押し潰されそうだよ。
そんな、みんなの姿をわたしは
ずーっと見ていましたよ。
わたしの名前は、レムリアン。
人の心が読める能力を持ってるの。
病院の宿り木にとまって、みんなのことを
見ていたら、
みんなの気持ちが見えるようになってきたんだ。
そして、
なんだか、悲しくて、切なくて、寂しくなってきたの
ここにいるみんな、大変な思いをしながら毎日を
過ごしているの。
ルチルちゃんは、明るい未来を見失ったの。
未来に希望を持てないと、諦めてしまったのね。
シトリンちゃんは、同じ境遇のおともだちの存在で
、明るい未来の光が少し届いたみたいね。
モリオンくんはね、これから自分との闘いに望むのよ。
とっても、とっても辛い気持ちになってるのね。
みんな、それぞれが難しい病と闘ってるの。
だから、わたしは、みんなのことを見守っていくの。
きっとみんなは、病に打ち勝つ。
そう願ってるの。
レムリアンは、ひとのことを、もっともっと知りたくなりました。
そして、
ひとの気持ちがわかるようになり、次第に、病室のみんなに心がひかれるようになりました。
入院して間もない、ルチルちゃんは、なかなか寂しさから抜け出すことができていませんでした。
そんなある日のお昼過ぎに、ルチルちゃんが病院のお庭のベンチに座っていると
ひとりの少年が近づいてきました。
少年は、ルチルちゃんに話しかけました。
「僕のおともだちになってくれませんか」
ルチルちゃんは、びっくりした顔をして、少年に聞き直しました。
「おともだちに、ですか」
「はい」
少年は、ニコニコした笑顔で、そう応えました。
「お名前は?」
「はい、レムリアンって言います。」
「よろしくね、わたしは、ルチル。」
少年は、少し間を空けて、何かを言おうとしたが、
しかし、何も言わなかった。
病院のお庭には、ふたりがポツンと、
まるで、かわいらしいペアのぬいぐるみのように
たたずんでいました。
ルチルちゃんはその後も、あの少年のことが
とても気になってていました。
「どこの病棟だろう?」
ルチルちゃんは病室のベッドの上、
窓からの景色を見つめながら、少年のことをしばらく考えていました。
ある日、病棟の廊下から大きな声が聞こえました。
「ルチルちゃん!」
その声はシトリンちゃんでした。
シトリンちゃんはルチルちゃんの病室に来て、
その興奮気味の息を抑えるように、一息ついて
言いました。
「わたし、手術日が決まったの」
「わたし、この手術が無事終わったら退院できるかもだって。」
シトリンちゃんは、目をキラキラさせながら、これまでの病院での思い出を話していました。
ルチルちゃんは、そんなシトリンちゃんのことを素直には喜べませんでした。
「わたしの病は、治らないの」
「わたしも家に帰りたいけど、治療方法もないし、
このまま病院に残るしかないの。」
そして、同時にその事で、自分自身のことを責めました。
「シトリンちゃん、おめでとう」
「さようなら」
ルチルちゃんは心のなかで、精一杯の気持ちを言いました。
病院のお庭の大樹の枝に宿る、小鳥のレムリアンが
その様子を見ていました。
しばらくしてから、シトリンちゃんは病院を退院していきました。
よく晴れた青空。
春の訪れ。ときどき吹き流れる風が
メロディを、奏でていた。
病院のお庭を散歩していたのは、ルチルとレムリアンでした。
ふたりは、時おり触れる肩を意識しながら、多くを語らず、同じときを過ごすようになりました。
そして、
レムリアンはしだいに、不思議な感情を感じていました。
それから、ふたりは何度も会うようになり
ルチルちゃんは恋をし、
レムリアンに、その事を告白するときがきました。
「わたし、レムリアンにひかれてるの」
「いつも、わたしに寄り添ってくれている」
ルチルちゃんは、レムリアンといっしょにいるときは、気持ちがとても明るくなれました。
「ねぇ、わたしの気持ちわかる?」
しかし、レムリアンには、まだそのことが理解できませんでした。
「僕には、わからないんだ。」
ルチルちゃんは、その言葉を発するためらいと、恥ずかしさで、告白できなくなりました。
気まずくなったふたりは、しばらくの間会うことはありませんでした。
そして、あれからずいぶん日が経ちました。
どしゃ降りのある日、
病院のお庭の大樹の枝に宿る小鳥は、病室の窓越しに
ひとりの少女が亡くなった様子を、見ていました。
そして、
その様子を見ていた小鳥の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ルチルちゃん、さようなら、ありがとう。」
おしまい
作家 ほっし校長
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生き抜く力【ガンと闘う10歳の僕に起きた奇跡】|ほっし校長|note
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