【小児ガン(骨肉腫)と闘った僕に起きた奇跡】マンタに乗った少年(骨肉腫患者) tory2
【入院初日】
わずか10歳の私には、病院での入院生活は、とても恐怖感のあることだった。
周りは大人だらけ、会話さえできず、出された食事を食べ、後は、ベットでごろっとするだけだ。
とても暇な時間を過ごし、時々、手術前の検査に呼ばれる。
私が子供だからだろう、若い看護婦さんが、私のところに頻繁に来てくれていたように感じる。
とても、優しいお姉さんだった。しかし、人見知りの私は、自分から話しかけることもできないでいた。
看護婦さんが来てくれると、病室が明るくなった。しかし、それも日中の明るい時間帯のことだけだった。
私は、病院の夜が怖かった。
暗く長い廊下には、人もいないのに、人の気配がする。
しかし、誰の姿も見えない。
日中、あれだけ多くの人が行き交う廊下との対比が極端だった。
私は、何かに導かれるように、西側に伸びる廊下をまっすぐ進み、突き当たりまでゆっくりと歩いた。
廊下の両側には、病室や浴室、洗面所が並ぶ。
突然、病室から人が出てきたら、洗面所の暗い奥から、誰かが私を見ていたらどうしょう。
そんなことを考えながら、ビクビクしていた。
私は、西側の外が望める窓に来ていた。
今朝、私を病院に連れてきてくれた母親の姿を見送った情景を思い出していた。
とっても空虚な気持ちだった。
しかし、それは寂しさからではなく、もっともっと深い、病に対する恐怖感からきたものだったように思う。
窓越しに外を見る私に、手を降り、バイバイをする母親の笑顔が見えた気がした。
私は、何かに引き寄せられるように、そのまま一階へ階段を下り、外来患者の待ち合い室に向かった。
すでに外来患者の診察時間は過ぎ、誰もいない待合室。
とても静かで、私のスリッパの地面を叩く音のみだ。
外来受け付けの反対側に手術室があった。
「手術中」の文字は消灯しており、外来入口もしまっている。
そこに、母親はもういない。私は、その事を確かめに来たのだろう。
納得して、病室に戻った。病室に戻るまでのことは覚えていない。
ひとりぼっちのさみしい夜が私を不安にさせる。
こんなときは、ネガティブなことばかり考えてしまう。
手術への不安。
いや、そもそも助からないかもしれん。
家族のみんなと別れて、ひとり死んでしまうかもしれん。
手術、苦しいのかな。
麻酔から目が覚めるのかな。
麻酔で寝てる間は、夢見るのかな。
身体を切るって痛いだろうな。
そんなことを考えていると、頭が疲れたのだろう。
いつの間にか、寝てしまった。
病院のベットは、家のベットより少し固く、冷たかった。
そんな記憶が今でも鮮明に甦る。
そうして、入院初日が終わった。