僕は恋をした
愛らしくて
切なくて、
胸が張り裂けそうになった
胸を焦がすような、その想いは嬉しさや、幸せと、
それらとは対局側の切なさや、悲しさがくっついて、セットとして用意されていた
僕は田中さんと手を繋いだ
引っ越し先の小学校での遠足
校舎から片道10キロメートル位の遠足は
これまでに感じたことのないワクワクを貰った
引っ越して半年も経っていなかったが、遠足の経験は、僕の見聞録の始まりとなった
地元では有名な観光名所 「武士の滝」
うす緑色に輝く滝壺からは、昔、神様の使いの龍が飛翔したという伝説が語り継がれていた
そんな神秘的な光景に見とれながら、先生の伝説話の解説を、心地よく耳にいれていた
そして、それは突然だった
田中さんが僕の右手を握るなり、
「あっち行ってみよう」
僕はされるがままに、田中さんについていった
僕は、田中さんの手をしっかりと握り返した
その瞬間、田中さんに「愛のテレパシー」を贈った
好きだった
その結んだ手がほどけないように
僕は、田中さんと結んだ手がずっとずっと、ほどけないように祈った
現地での自由時間、
武士の滝の辺りは、オートキャンプ場になっており、
アスレチックや散策コースが充実していた
僕と田中さんはお昼のお弁当を食べる場所を決めて、
リュックを降ろした
二人のリュックが寄り添うように敷物の上に並んでいた
僕は田中さんに恋をしていた
「好きだっ!」って叫ぶ心の声は、武士の滝の激流と滝壺に落ちる水しぶきの音に掻き消された
僕は田中さんと一緒に居るときは、胸が熱くなり、心臓の鼓動が倍速になった
僕は幸せをいっぱいに感じることが出来た
幸せだった
しかし、
まだ、その想いを伝えてはいなかった
そして、
結局、恋を伝えることができないまま
僕は入院をした
もう、二度と会えないと本気で思った
なぜなら、
僕は末期のガンに身体を侵されてしまっていたからだ
もう、恋は出来ない
そう想った
好きな田中さんとはもう、会えないと覚悟した
これが僕の、【恋の記憶】だつた
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