頭痛キャラメル 第二十四話
【未完成のポートレート】
僕の家には、母方のおばあちゃんが一緒に住んでいた。おばあちゃんは、胃ガンの手術を受けた後、僕の家で療養していた。僕の家は、病院に近いので、おばあちゃんもそれを望んでいた。
僕たち家族もおばあちゃんの体のことが心配だったので、一緒に生活できると安心だった。
しかし、僕たち家族は、おばあちゃんには、胃潰瘍だと嘘をついて説明していた。
おばあちゃんは、とっても心配性だったため、胃ガンのことを告知しないことにしていたのだ。
おばあちゃんの胃ガンは、すでに末期で完治することは難しい状態だった。
余命宣告に耐えることができないと判断し内緒にしていた。
今思えば、おそらくおばあちゃんは、気付いていたのかもしれない。最初は、自身の病名を何度も確認していた。
僕はその度に、心が傷んだ。
おばあちゃんの顔を見ると、とても胸が苦しくなった。
その優しく、つぶらな瞳
「ありがとう、説明してくれてありがとう」という言葉
おばあちゃんに嘘をついてまで、隠し徹したことに、どんな意味があったのか
あれからもう、何十年も経つが、いまだに答えが見つからない
それから数年後、おばあちゃんは天国へ旅立った
僕のおじから、おばあちゃんのポートレートの制作を頼まれた
「一生の宝物にするから」と、おじは言っていた
僕は小さい頃から、絵を描くことが好きだったことを、おじは、知っていたようだ
大きなキャンバスに、下書き無しで、直接に油絵の具をのせていった
僕が絵を描いている間は、食事をすることも後回しにして、夢中になってしまう
そこに、おばあちゃんがいるかのような気持ちを維持し続け、時折、
「おばあちゃん!ココ、こんな感じだっけ?いい?」
と、天国のおばあちゃんに話しかけながら絵の具をのせた
天国のおばあちゃんが、僕に語りかけることはないが、なんとなく、
「うん、その色いいよ」
と言ってくれているように感じた
途中、何んだかわからなくなって、全く手を加えない期間もあった
その、もやもやしたなにかは、自然に消えてしまい、また、再開し描きはじめた
描きはじめて、数ヵ月が経過した
なんとなく、出来たのかな
と、思えるような状態になった。
ここにくるまでの間に、何度も母親に、
「できたみたいね」と、言われたが
完成はしていなかった。
絵を描いている僕は、まだ納得していなかったのだ
しかし、おじとの、約束の時期になったので、少しモヤモヤしながら、絵を渡した
それから何十年か経ち、そのおじが亡くなった
僕は、その絵のことをすっかり忘れていたが、亡くなったおじのもとから、その絵が再び、僕のところへ戻ってきた
僕はその絵を眺め、
絵を描いていた当時、色の一つ一つをのせながら、天国のおばあちゃんと会話していたことを、思い巡らしていた
この絵は、まだ完成していない!
そう、感じたのだ
長い時を経て、再び、僕の元へ戻ってきた、おばあちゃんのポートレート
だけど、この先、僕はもう
この絵には、新たな絵の具をのせることはないだろう
なぜなら、おばあちゃんは、そこにはいないからだ
僕の心のなかの、おばあちゃんを絵の具で描くことはできない
完成しないことが正解なのだと、僕のなかで納得した。
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